着うた・デコメの黎明期
2000年代初頭、日本の携帯電話は俗に「ガラケー(ガラパゴス携帯)」と呼ばれ、独自の進化を遂げていました。最大の特徴は、多機能性とカスタマイズ性です。着信音を音楽ファイルとしてダウンロードできる「着うた」サービスがスタートし、ユーザーは自分の好きな楽曲を着信音として設定できるようになりました。これによって音楽配信の新たな市場が開拓され、アーティストにとっても大きな収益源となったのです。
同時期に台頭したのが「デコメ(デコレーションメール)」です。絵文字や画像、動くアニメーションなどを駆使して、メール本文を華やかに飾る文化が急速に広がりました。当初はメール送受信にもパケット通信料がかかるため、デコメを使うと料金が高くなるケースもありましたが、それでも「友達とのやりとりを可愛く・面白くしたい」という気持ちから、多くの若者がこぞってデコメを使い始めたのです。
赤外線通信とガラケーの独自路線
2000年代には、携帯電話同士をかざしてデータをやり取りする「赤外線通信」が普及しました。友達の連絡先を瞬時に交換できる機能として重宝されたほか、画像や着うたの一部などを赤外線で送受信するという、今では考えられないような地道なやりとりも行われていました。
スマートフォンが出現する前の時代、携帯各社は「ガラパゴス」と呼ばれるほど日本独自の路線で機能を強化していきました。ワンセグやおサイフケータイ、防水仕様、折りたたみ式の多様なデザインなど、海外の携帯にはない特徴が次々と登場し、日本の市場では高いシェアを占めていたのです。
2000年代を象徴する携帯文化
当時の若者にとって、携帯電話の外装をデコレーションする「携帯ストラップ」や「シール貼り」も流行しました。キャラクターグッズやファッションブランドのストラップを大量につけた結果、携帯本体よりストラップのほうが重いという事態も珍しくありません。さらに、手書き風の文字や動くスタンプを挿入できるデコメツールが普及し、一通のメールを作成するだけでも大変な労力を要したのです。
とはいえ、この時代の携帯文化は「自分らしさ」を表現する大きな手段でした。中高生が通学途中に赤外線通信で音楽ファイルを交換し合う光景があったり、好きなアーティストの着うたを聞かせ合ったりと、コミュニケーションが携帯端末を中心に回っていたともいえます。
未来への懐かしさを感じる
スマートフォンが主流になった現在、ガラケーやデコメ文化は過去のものと思われがちです。しかし、一部ではガラケーの使いやすさや、折りたたみデザインへの郷愁から、あえてガラケーを使い続けるユーザーも存在します。また、当時のデコメや着うたを懐かしむ声がSNSで発信されることも増え、「あのころは携帯をカスタマイズする楽しみがあった」というコメントが多く見られます。
今振り返ってみれば、不便な点も多かった2000年代の携帯文化ですが、その不便さこそが人とのコミュニケーションを深めるきっかけになっていた面もあるでしょう。赤外線通信でじっくり向き合ってデータを交換するとき、そこには自然と会話が生まれ、笑い合う時間がありました。そんな「アナログとデジタルの狭間」の楽しさを思い出すと、当時を知る世代には少しのノスタルジーが宿るかもしれません。